尿路結石症は男性の7人に1人(15%)、女性の5人に1人(7%)が罹患し、5年で約50%が再発する。尿路結石の約90%がシュウ酸カルシウム(Ca)やリン酸Caを主成分とする一方、Ca結石の形成を抑制、溶解する薬剤や根治療法はない。最も有効な予防法が水分摂取にとどまることから、成因究明および再発予防法、治療薬の確立が求められている。東北医科薬科大学泌尿器科学教室の阿南剛氏〔現・四谷メディカルキューブ(東京都)泌尿器科科長〕らの研究グループは、SGLT2阻害薬の利尿作用や抗炎症作用に着目し検討した結果、同薬が腎結石の形成を抑制する効果を示したとPharmacol Res(2022; 186: 106524)に発表した(関連記事「カルシウム結石溶解への挑戦」)。RWD研究の結果をモデル、細胞実験で検証 糖尿病治療薬のSGLT2阻害薬は、腎臓でのグルコース再取り込み抑制を介して血糖低下作用を発揮する。近年では、心臓や腎臓保護作用に加えて、利尿作用や抗炎症作用なども注目されている。こうした作用が腎結石抑制に働くと考えられるが、これまでSGLT2阻害薬の腎結石に対する効果に関する詳細な検討はなかった。 そこで阿南氏らは、診断群分類包括評価(DPC)データベースから、2020年1月1日~12月31日に登録された20歳以上の糖尿病患者153万8,198例(男性90万9,628例)を抽出。リアルワールドデータ(RWD)を用いて、SGLT2阻害薬処方の有無別に尿路結石の有病率を検証した。 解析の結果、男性における尿路結石有病率はSGLT2阻害薬処方群で2.28%、非処方群で2.54%と、SGLT2阻害薬処方群で尿路結石リスクが有意に低かった〔オッズ比(OR)0.89、95%CI 0.86~0.94、P<0.001〕。年齢で層別化した解析では、80歳以上を除く全ての年齢層で同様の結果が示された。しかし、女性では有意なリスク低下は認められなかった(有病率1.58% vs. 1.66%、OR 0.95、95%CI 0.89~1.02、P=0.17)。 次にCa腎結石形成ラットを用いた実験により、SLGT2阻害薬が結石形成に及ぼす影響を検討したところ、Ca腎結石形成ラットではSGLT1/2阻害薬phlorizin投与により、腎結石の形成が有意に抑制された(図)。図. phlorizin投与による腎結石形成の抑制(東北医科薬科大学プレスリリースより) また、phlorizin投与により結石形成に重要な蛋白質であるオステオポンチン(OPN)の発現や炎症マーカー、腎障害・線維化マーカーが有意に低下した。一方、phlorizinの利尿作用による尿量増加を想定していたが、飲水量と尿量に有意な変化は認められなかった。このことから、SGLT2阻害薬による腎結石の形成抑制は利尿作用ではなく、抗炎症作用によるものと考えられた。 加えてSGLT2遺伝子ノックアウトマウスを用いた検討では、Ca腎結石の形成がほとんど認められず、OPNを含む結石形成や炎症に関わる遺伝子発現も野生型マウスに比べて有意に低下していた。 さらに、ヒト近位尿細管培養細胞を用いた検討においても、動物実験の結果と同様にSGLT2の阻害により、Ca結晶接着量の低下およびOPNを含む結石形成や炎症に関わる遺伝子発現の有意な低下が示された。腎結石に対する有望な治療アプローチとなる可能性 以上を踏まえ、阿南氏は「日本人の大規模RWDを用いた疫学研究、腎結石形成モデルを用いた動物実験、培養細胞実験から、腎結石の形成には腎尿細管での炎症反応が関与しており、SGLT2阻害薬の投与により抑制できることを明らかにした」と結論。「今後の腎結石形成機序の解明、腎結石治療薬の開発への応用が期待できる」と展望している。
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